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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)573号 判決

上告人 高岡光男

被上告人 峰節子 外二名

主文

本件上告中被上告人光次郎、同留美に対する上告を却下し、被上告人節子に対する上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人は控訴審において被上告人光次郎、同留美に対しては全部勝訴の判決を得たのであるから、右被上告人等に対しては上告の利益がなく、その上告は不適法なので却下されるべきものである。

上告人の被上告人節子に対する上告については(一)原審の認定事実によれば、被上告人節子が本件契約に基き二百五十万円を請求し得ることは明白であり(二)上告人の証拠によつては未だ強迫ありと認め難いとした原審の判示は十分首肯できるのであり、論旨はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴三八三条、三九六条、四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

昭和二九年(オ)第五七三号

上告人 高岡光男

被上告人 峰節子 外二名

上告代理人都甲直人の上告理由

一、上告人は原審(福岡高等裁判所)判決は法令に違背し判決理由に齟齬のある事を理由として上告したものである。

二、原審判決は養育料の請求権は被控訴人峰光次郎、峰留美にはなく被控訴人峰節子にのみあるものとして光次郎、留美の両名の請求を排除し節子に対してのみ金二百五十万円及び之に対する昭和二十五年五月七日より完済迄年五分の割合による金員の支払いを判決されて居るがかかる事となれば峰節子は曩に上告人高岡光男より二回に亘り金三十万円也の給付を受け今亦二百五十万円也の給付を受くる事となり合計金二百八十万円の給付を単独に受くることとなるものなれば本件給付契約が正当に成立したものとしても峰節子は不当に利益を受くるものである。上告人が曩に二回に亘り給付した金三十万円也は峰節子に対するものであり峰光次郎、峰留美とは全然関係なきもので若し金二百五十万円を上告人が給付するものと解釈するものとせば其金員は其性質上表示が養育料となつていると否とに拘わらず当然光次郎及留美に給付さるべきものと解釈するのが実験則に基く法律の常則的正当解釈である。然るに原審判決は之と異り峰光次郎、留美の請求を排除して峰節子に対してのみ給付の判決をして居るのは法律の実験常則的の解釈を誤りたる法令違背の判決である。

三、原審は給付契約に当り「被控訴人節子の病人たる控訴人に対する折衝態度にはいささか強引の嫌なきにしもあらずとの感はあるけれども」と判示し居り乍ら上告人に対し強迫があつたと到底いうことは出来ないからと云つて居るが其強迫に至るに足る程度の審理を具体的になし居らず、証拠による審判はなされて居らない。なぜならば甲第一号証作成当時に於ける上告人の病状は当時の侍医証人井上円蔵のみの知るところで同人の供述を信用する以外になく同人は当時に於ける上告人の病状を詳述して相当重症患者であることは供述して居り其重症患者に強制面接而も面会謝絶の者に強引に面会をした節子とすれば相当の行為があつた事は察知される所であり、殊に証人岡村ヒサ子、同高岡ちか子の供述によつても相当節子の折衝が強引であつた事実は認められ証拠に仍つて裁判をなす時は当然強迫行為を認むべきに拘らず、原審は自己の心境判断によつてのみ独断して強迫を認めて居らない。此点に於ても原審判決は当然証拠によらずして事実の判断をした法令違背がある。尚第一審(長崎地方裁判所)及原審に於ても当時に於ける上告人の生活状態から云つても金二百五十万円は不相当に多額であると言つて居るが自己(上告人)の収入生活と対比してあまりに多額であれば上告人の病状と照合する時は当然本人の真意の表示でない事だけは容易に判断出来る所で何らかの強迫意思が加へられた結果書類は強引に作成された事は認められる。此点によつても甲一号証作成につき強迫が行われて居る事が充分に認められる所である。

以上の点につき原審裁判は当然破棄せらるべきものである。

以上

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